TeX で限界を突破する(その 2)
tairahikaru
2024-12-26
「TeX & LaTeX Advent Calendar 2024」の 6 日目に記事を書いたあとに、ふと気になったことがある。
その記事では \advance
を用いると限界を突破できることを説明したが、\ifcase
中に \or
がたくさん("7FFFFFFF 個より多く)でてくるとどうなるのだろうか。
ということで試してみた。
ちなみに 25 日の記事は ZR さんの「重点解説! イマドキの LaTeX の“命令フック機能”」だ。
\manyX
で突破する試み
まずは、先日の記事で使った \manyX
(をなるべく省メモリになるように再実装したつもりのもの)を使って "7FFFFFFF 個の \or
を含むマクロを定義し、実行することを試みる:
\catcode`\{=1 \catcode`\}=2 \catcode`\#=6
\def\manyX#1#2#3{\begingroup
\count255=#2%
\toks0{%
\edef\x##1{%
\ifnum\count255<2
\the\toks2
\else
\divide\count255 2
\the\toks0{##1##1}%
\fi
\ifodd\count255 ##1\fi}\x}%
\toks2{\the\toks4\expandafter{\ifnum`}=0 \fi}%
\toks4{\endgroup\def#1}%
\the\toks0\ifnum`{=0 \fi{#3}}}
\manyX\tmp{"7FFFFFFF}{\or}
\immediate\write16{\ifcase-1\tmp\fi}
このコードを実行すると、
! TeX capacity exceeded, sorry [main memory size=5000000]
となる。
texmf.cnf を編集する代わりにコマンドライン引数を用いて tex -ini -cnf-line=main_memory=5000000000
とした(main_memory
は initex でしか反映されない)ところ、Ouch---my internal constants have been clobbered!---case 14
という見慣れないエラーが出た。
Stack Exchange のこの回答によれば 12,435,455 より大きい値は指定できないということである。
16 進数で 7FFFFFFF は 10 進数で 2,147,483,647 であるので、12,435,455 のメモリではどう考えても入りきらない。
それでも限界を突破したい
諦めるのはまだ早い。 メモリに載り切らないのであれば、メモリに載せずに実行すればよいのだ!
具体的には
\ifcase-1
⟨\or\or\or\or…
\or がたくさん並ぶ⟩
\fi
という TeX ファイルを作れば、たくさんある \or
をメモリに載せずにつど読み込んで読み飛ばしていけるはずである。
というわけでそんなファイルを生成するためのスクリプトを Lua で書いた(TeX で書く気は起きなかった)。 LuaTeX がインストールされているのであれば texlua も使えると考えられるので、それで実行してもよい。
4 GB を超えるサイズの TeX ファイル(正確には 4,295,396,905 byte)が生成されるので注意。
実行は環境にもよるだろうが、数秒で終わる。
f = io.open('manytilde.tex', 'w')
f:write('\\catcode`\\~13 \\let~\\or')
f:write('\\ifcase-1\n')
-- '~' の繰り返し回数
n = 0xFFFFFFFF
l = 10000
r = n % l
n = n // l
l = l - r
line = '\n'
while r > 0 do
line = '~' .. line
r = r - 1
end
f:write(line)
while l > 0 do
line = '~' .. line
l = l - 1
end
l = 200
r = n % l
n = n // l
lines = ''
l = l - r
while r > 0 do
lines = lines .. line
r = r - 1
end
f:write(lines)
while l > 0 do
lines = lines .. line
l = l - 1
end
print(n)
while n > 0 do
f:write(lines)
n = n - 1
if n % 100 == 0 then
print(n)
end
end
f:write('\\immediate\\write16{-1}')
f:write('~')
f:write('\\immediate\\write16{0}')
f:write('~')
f:write('\\else')
f:write('\\immediate\\write16{else}')
f:write('\\fi')
f:write('\\end')
f:close()
さて、こうして作られる manytilde.tex の中身は次のようになっている:
\catcode`\~13 \let~\or\ifcase-1
⟨~~~~~~~~…
~ が合計 "FFFFFFFF 個適宜改行を挟みつつ並ぶ⟩
\immediate\write16{-1}~\immediate\write16{0}~\else\immediate\write16{else}\fi\end
間に改行を入れてるのは ! Unable to read an entire line---bufsize=200000.
に引っかかるため。
これを実行すると、わたしの環境では 5 分足らずで終了し、コンソールに -1
が出力される。
すなわち \immediate\write16{-1}
が実行されたということである。
つまり \or
の数え上げが overflow して \ifcase-1
で \else
以外の節が選択されたということになる。
結論
\ifcase
で負の数でも条件分岐したいときは、次のようにすべし:
\ifnum\count255<0
\ifcase-\count255
⟨条件分岐の中身(負の場合)⟩
\fi
\else
\ifcase\count255
⟨条件分岐の中身(非負の場合)⟩
\fi
\fi
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